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東京地方裁判所 昭和60年(ワ)9446号 判決 1988年6月22日

原告 大野はな

右訴訟代理人弁護士 丸尾武良

同 久利雅宣

右訴訟復代理人弁護士 室賀康志

被告 日本ビルプロジェクト株式会社

右代表者代表取締役 山口忠

右訴訟代理人弁護士 熊野朝三

主文

一  被告は、原告に対し、金七〇〇万五一五九円及びこれに対する昭和五九年四月一日から支払ずみまで年六分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は、これを四分し、その一を被告の負担とし、その余を原告の負担とする。

四  この判決は、第一、第三項に限り仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求める裁判

一  請求の趣旨

1  被告は、原告に対し、金三四五三万六五二〇円及び内金一〇三八万二三二三円に対する昭和五九年四月一日から支払ずみまで年六分、内金二三七〇万四一九七円に対する同年一一月一日から支払ずみまで年五分の各割合による各金員を支払え。

2  訴訟費用は、被告の負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は、原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  共益費支払請求について

(一) 被告は、不動産の売買、分譲、賃貸、管理及びその仲介斡旋等を業とする株式会社である。

(二) 原告は、昭和五三年六月一日、被告に対し、次の約定で、別紙物件目録(一)記載の建物(以下「本件(一)建物」という。)の管理を委託した(以下「本件管理委託契約」という。)。

(1) 管理委託料 月額五七万五五三四円

(2) 被告は、原告のために、本件(一)建物の賃借人又は転借人から、共益費を徴収する。

(3) 原告は、被告に対し、当月分の管理委託料を当月末日までに支払う。

(三) 被告は、昭和五三年五月から、同五九年三月までの間に本件(一)建物の賃借人及び転借人から、同月までの分の共益費として合計五一一一万九七〇三円を徴収した。

(1) 共益費名目で徴収した金員 合計四六六〇万三五三九円

イ 被告がその作成に係る「浅野ビル共益費明細書」に計上している共益費 合計四五五六万五四四五円

ロ 被告が右明細書に計上していない共益費 合計一〇三万八〇九四円

① 昭和五三年九月の西五番館こと田中秀男(以下「西五番館」という。)の共益費 一〇万五七一二円

② 昭和五四年五月から同年七月までの西五番館の時間外共益費 四万五〇〇〇円

③ 同五七年一〇月から同五九年三月までの清水龍三、金城一夫及び三津山永珍の共益費 八八万七三八二円

(2) 看板道路占用料名目で徴収した金員 六八万九〇〇〇円

看板道路占用料は、原告所有の看板(利用者は各転借人)が公共道路を占有していることにより、場合により、東京都から道路占用料を請求されることがあるために徴収しているものであるから、ビルの管理にかかる実質的な共益費である。

(3) 被告が賃借人として負担すべき共益費 一五九万二五六七円

被告は、本件ビルの管理受託者であるとともに、各室の賃借人でもあるから、前項(2)の約定により、賃借人として共益費を支払わなければならない。

(4) マダムジョージこと深山カズ子(以下「マダムジョージ」という。)から徴収すべき時間外共益費 一五八万八五〇〇円

(5) 西五番館が共用部分を専有部分同様に使用したことにより、西五番館から徴収すべき共益費 七六万円

(四) よって、原告は、被告に対し、管理委託契約に基づき、徴収し又は徴収すべき共益費から原告が被告に支払うべき管理委託料四〇二八万七三八〇円を控除した一〇八三万二三二三円及びこれに対する徴収共益費の最終の弁済期の翌日である昭和五九年四月一日から支払ずみまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を求める。

2  不当利得返還請求について

(一) 原告は、別紙物件目録(二)記載の建物(以下「本件(二)建物」という。)を所有している。

(二) 原告は、昭和五三年六月一日、被告に対し、本件(二)建物のうち別表賃借面積欄記載のとおり合計六一三・八一七平方メートル(専有部分)を賃料月額一八五万円で賃貸し(以下「本件賃貸借契約」という。)、これを引渡した。

(三) 被告は、第三者に対し、本件(二)建物のうち別表転貸面積欄記載のとおり合計七〇〇平方メートル、即ち、別表超過面積欄記載のとおり右賃借部分を合計八六・一八三平方メートル超過する面積を転貸したが、これは、被告が前記(二)の専有部分のほかに共用部分(以下(本件共用部分」という。)を転貸したことによるものである。

(四) 被告は、右超過部分(共用部分)の転貸により、昭和五三年六月一日から同五九年一〇月三一日までの間に、少なくとも別表不当利得額欄記載のとおり合計二三七〇万四一九七円を利得した。

(五) 賃借部分を超過した転貸による利得は、信義則上、所有者である原告に帰属すべきものであるから、原告は、右同額の損失を被った。

(六) よって、原告は、被告に対し、不当利得返還請求権に基づき、二三七〇万四一九七円及びこれに対する利得の最終日の翌日である昭和五九年一一月一日から支払ずみまで民事法定利率年五分の割合による利息の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  共益費支払請求について

(一) 請求原因(一)(被告について)の事実は認める。

(二) 請求原因(二)(管理委託契約について)のうち、同(2)の事実は否認し、その余は認める。

被告が原告のために共益費を徴収すべき相手方は、転借人のみである。本件賃貸借契約においては、そもそも被告が自ら実際のテナントとなることは予定されていないからである。

(三)(1) 請求原因(三)(共益費の徴収)のうち、被告が昭和五三年五月から同五九年三月までの間に同月までの分として同(1)及び(2)のとおり四七二九万二五三九円を徴収したこと及び看板の外体(表示部分を除いた部分)が原告所有であり、各転借人が右外体を利用していることは認め、その余の事実は否認する。

(2) 同(1)及び(2)に対し

被告が原告のために徴収し、原告に引渡すべき共益費は、被告が転借人から徴収した共益費のすべてをいうのではなく、管理委託料で支払を予定されていた項目(共用電気料及び共用水道料)につき徴収した金員のうち昭和五三年六月一日に定められた金額による部分を指すのであり、時間外共益費及び看板道路占用料として徴収した金員並びに共用電気料及び共用水道料のため徴収した金員のうち同五五年五月の値上による部分を含まない。けだし、被告は、転貸人として徴収すべき共益費の項目と金額を独自に決定しうるからである。

また、看板道路占用料は、東京都に納入すべきものであって、原告に引渡すべきものではない。

2  不当利得返還請求について

(一) 請求原因(一)(原告の本件(二)建物所有について)、同(二)(被告に対する賃貸)及び同(三)(被告の転貸)の各事実は、認める。

(二) 請求原因(四)(被告の利得)及び同(五)(原告の損失)の各事実は、否認する。

三  抗弁

1  管理委託契約変更の合意について

(一) 被告は、昭和五三年六月頃、原告との間において、本件管理委託契約(甲第一号証)の第八条及び第九条の各規定を適用しないこととし、現実に支出した管理費用が徴収された共益費を超過するときには徴収された共益費を限度とし、超過部分は請求を留保し、後に徴収された共益費が現実に支出した管理費用を超過したときに精算することを合意した。

(二) 昭和五三年六月から同五九年三月までに現実に支出した管理費用は、合計四八三七万四九四四円である。

2  満室保証契約について

被告は、原告との間において、本件(一)建物の建築請負契約を締結するに際して、満室保証契約を締結した。この契約は、賃借人が、空室により賃料収入が確保されないリスクを負担しつつ、なお一定の利益を得るため、所有者との間で、転貸を承諾することを条件として、専有部分と共用部分とを一括して対象とする建物賃貸借契約を締結し、所有者との間では専有面積を基準として賃料を算出し、転借人との間では共用面積を含んだ面積を基準として独自の高めの賃料を算出する契約である。したがって、被告が原告とかかる契約を締結した上で、賃借建物を共用部分も含めて第三者に転貸し、その部分を含む面積に対応した賃料を取得したとしても、原告との間において、なんら不当に利得をしたことにはならない。

3  和解契約について

被告は、昭和五九年一〇月三一日、原告との間において、原被告間の賃貸借契約を解除し、新たに賃借人となる株式会社オーエム企業がこれまでと同一条件で転借人との間で賃貸借契約を締結することに被告が協力し、これにより原被告間の問題をすべて解決することとする旨の和解契約を締結した。

四  抗弁に対する認否

1  抗弁1の事実は、否認する。

原告が被告との間で約定した管理委託料月額五七万五五三四円は、共用部分の管理費用を含み、かつ、原告が被告に支払う最高限度額を定めたものであるから、仮に現実の管理費用が右管理委託料を超過したとしても、超過分は被告において負担すべきものである。

現実の管理費用が超過するため、約定の管理委託料では管理業務を遂行できないというのであれば、管理委託契約に基づき、管理委託料の変更の協議を申し出ることができることとされているにもかかわらず、被告は、かかる協議を申し出たこともない。

2  抗弁2(満室保証契約)の事実は、否認する。

(一) 共用部分も本件賃貸借契約の対象であるならば、共用部分の管理費は被告において負担すべきものであるが、共用部分の管理費は管理委託料に含まれており、原告が負担しているのである。

(二) 「建物の新築及び賃貸借に関する予約契約」書(甲第二号証)、本件賃貸借契約書(甲第四号証)及び保証金預託契約書(甲第五号証)にも、本件賃貸借契約の面積は、共用部分を含まない六一三・八一平方メートルと記載されている。そして、右専有部分の面積は、一八六坪に換算され、原告と被告との間では、賃料を坪当たり月額約一万円として合計一八五万円と定めたのである。

(三) したがって、本件賃貸借契約の対象は、専有部分のみであり、これに共用部分の使用貸借が付随しているにすぎない。

3  抗弁3(和解契約)の事実は、否認する。

第三証拠《省略》

理由

一  共益費支払請求について

1  請求原因1(一)(被告について)の事実は、当事者間に争いがない。

2  請求原因1(二)(管理委託契約について)の事実のうち、被告が原告のために本件(一)建物の賃借人等から共益費を徴収すべき旨の約定の部分を除くその余の事実は、当事者間に争いがない。

そこで、右約定について判断すると、《証拠省略》によれば、被告は、昭和五三年六月一日、原告との間において、管理委託契約を締結したが、その契約書(甲第一号証)には第八条第三項として「被告は建物の賃借人より、共益費を原告のために請求徴収しなければならない。」との記載があることが認められるところ、証人大野正夫は、右条項により被告は本件(二)建物の賃借人である被告自身から共益費を徴収しなければならないことになる旨証言する。

しかしながら、《証拠省略》を総合すれば、原告は、被告に対し、本件(一)建物の建築を請け負わせたが、当初から本件(一)建物の賃借人の募集について危惧を抱いていたこと、そこで、被告は、原告の最低の賃料収入を保証し、原告の右危惧を解消することを目的として、昭和五三年六月一日、原告との間において、被告が原告から一括して本件(二)建物の専有部分を賃借し、原告に賃料を支払うとともに、被告は賃借建物を転貸し、原告は右転貸をあらかじめ承諾する旨の契約(甲第四号証)を締結したこと、右契約によれば、原告は一定の賃料収入を保証されることになり、他方、被告は転借人募集のリスクを負うが、原告に支払う賃料より高額の賃料で転貸することで収益をあげることができることになること、原告と被告の間では、原告との契約上被告が賃借人となるものの、実際に本件賃貸借契約の対象となった建物を利用するのは転借人であり、被告が直接利用することは予定していないこと、原告は、同日、被告との間において、本件(二)建物の共用部分の管理責任が原告にあることを前提として、前記のとおり被告に本件(一)建物の管理を委託する旨の契約を締結したこと、原告は、被告との間において、被告が徴収した共益費が原告が被告に支払うべき管理委託料に満たないときは、徴収された共益費の限度で原告が被告に対し管理委託料を支払う旨を合意したことがそれぞれ認められる。そして、原告と被告との間において共益費として徴収する費目及びその額について明確な合意が存在せず、原告がその決定を専ら被告に委ねていたことは、後記3(二)(1)のとおりであるが、およそ共益費とは、共同住宅において共用部分の維持・管理等居住者の共同の利益のため各居住者が拠出する費用を指すものであって、建物の利用者が負担すべきものであるところ、右認定のとおり原告と被告との間においては、被告が原告から賃借した建物を直接利用することは予定していなかったこと、被告が賃借人として共益費を負担するものと解するとすれば、管理者として被告は、賃借人としての被告自身から共益費を徴収すべきことになり、また、その額も被告が決定するという不自然なことになること、共益費を負担するものが転借人に限られるとすれば、転貸借契約が締結されるまで共益費は徴収されないことになるが、右認定のとおり原告は徴収された共益費の限度で管理委託料を支払えば足りるのであるから、右のように解したとしても、原告に特段の負担は生じないことの各事実に照らせば、本件管理委託契約第八条第三項の「賃借人」とは、被告を含まず、被告からの賃借人すなわち転借人を指すものと解すべきである。

3(一)  請求原因1(三)(共益費の徴収)の事実のうち、被告が昭和五三年五月から同五九年三月までの間に転借人から同月までの分の共益費名目及び看板道路占用料名目で四七二九万二五三九円を徴収したことは、当事者間に争いがない。

(二)  そこで、右徴収額のうち被告が原告に対し管理委託契約に基づき共益費として引き渡すべき部分について判断する。

(1) 《証拠省略》によれば、原告と被告との間においては、本件賃貸借契約で共益費として冷暖房空調を例示するほか、共益費としていかなる費目を徴収するか及びその額をいくらとするかについて明確な合意がなく、原告は、その決定を専ら被告に委ねていたことが認められる。また、前記2認定のとおり、原告と被告は、本件(二)建物の共用部分の管理責任が原告にあることを前提として、本件管理委託契約を締結し、これにより、被告は、原告のために転借人から共益費を徴収し、原告は、被告に対し一定の管理委託料を支払うこととしているのである。従って、被告が転借人から共益費名目で徴収した金員が本件(二)建物についての前記2の共益費としての性質をもつものである限り、本件管理委託契約でいう共益費に含まれるというべきである。そして、《証拠省略》によれば、被告と転借人との間で締結された転貸借契約においては、転借人は、被告に対し共益費を支払うべきものとされているが、その費目として、冷暖房、その他施設の使用・維持に必要な諸経費が挙げられていることが認められる。従って、右事実によれば、被告が転借人から共益費名目で徴収した金員は、かかる諸経費としての性質をもつと推認されるところ、冷暖房のための費用が本件管理委託契約でいう共益費に含まれることは、前示のとおりであり、また、施設の使用・維持に必要な諸経費も前記2の共益費といいうるから、被告が転借人から共益費名目で徴収した金員は、被告が取得すべきものと解すべき特段の事情のない限り、本件管理契約上の共益費に含まれると解するのが相当である。

(2) 《証拠省略》によれば、原告は、昭和五九年三月をもって被告との間の本件管理委託契約を解約し、同年四月一日、株式会社オーエム企業と株式会社三協ビルメンとの間において管理委託契約が締結され、同日から株式会社三協ビルメンが本件(一)建物の管理を行っていること、右管理委託契約における管理委託料は、月額六七万六〇〇〇円とされていること、右管理委託料のうち九万円は、日曜祭日を除く毎日午前九時から午後六時まで日常管理業務員が常駐するための費用であることが認められる。原被告間において、昭和五三年六月一日に本件管理委託契約を締結するに当たって管理委託料を月額五七万五五三四円と定めたことは、前示のとおりであり、《証拠省略》によれば、被告は、本件(一)建物の管理につき、管理人を常駐させないことを予定していたことが認められ、被告の管理委託料と株式会社三協ビルメンの管理委託料とは、右常駐の費用を除けば、実質的に異ならないということができる。また、《証拠省略》によれば、現実に支出する管理費用を賄えるという見通しで管理委託料を月額五七万五五三四円と定めたことが認められる。以上の事実に照らせば、原被告間で、本件管理委託契約において、被告が原告のために共益費を転借人から徴収すると定めるに際して、被告が転借人から共益費名目で徴収する金員のうち一部のみを原告に引き渡し、残部は被告が取得することを合意したと解すべき特段の事情があるとは認められない。

従って、被告が転借人から共益費名目で徴収した金員のうち後記(3)認定の増額に至るまでの金額による部分は、本件管理委託契約上の共益費に当たり、被告は、原告に対し、右金員を引き渡す義務があるというべきである。

(3) 《証拠省略》によれば、被告は、光熱費等の値上がりに伴い、転借人から徴収する共益費を昭和五五年五月分から二割増額したが、原告との間では管理委託料を増額していないことが認められる。しかしながら、右増額分は、共益費の一部である以上、原告が取得すべきものであって、これが被告の取得すべき金員であると解すべき特段の事情を認めるに足りる証拠はない。かえって、《証拠省略》によれば、本件管理委託契約においては、物価賃金等の著しい変化を生じたときは、管理委託料を改訂する旨の約定が存することが認められ、右約定に照らせば、被告は、約定の管理委託料では管理費用を賄えないときは、原告との間で管理委託料を改訂しうることとし、原告は管理委託料の増額分を転借人から徴収する共益費に転嫁することを予定していたものというべきであって、右契約の仕組みの上からみても、転借人の支払う共益費の増額分が前記(1)の共益費に含まれることはいうまでもない。

(4) 《証拠省略》によれば、前記(一)の金員の中には、被告が転借人のうち深夜まで営業しているものから時間外共益費名目で徴収した分が含まれていることが認められるが、時間外共益費名目で徴収した分は、被告が取得すべきもので原告に引き渡すべき共益費に含まれないと解すべき特段の事情があると認めるに足りる証拠はない。従って、時間外共益費として徴収した分も、前記(1)の共益費に含まれるというべきである。

(5) 看板の外体が原告の所有であることは、当事者間に争いがなく、また、被告が、転借人から看板道路占用料名目で合計六八万九〇〇〇円を徴収したことは、前記(一)認定のとおりである。そして、右認定のとおり、原告は、転借人から徴収すべき共益費の費目及び額の決定を専ら被告に委ねていたのであるから、看板道路占用料という名目であっても被告が転借人から徴収した金員は、被告が転貸人としての立場で収受する賃料等を除き、被告が右金員を取得すべき特段の事情のない限り、原告に引き渡すべき共益費とみるのが合理的であること、東京都から道路占用料が請求されるのは、看板の外体の所有者である原告であって被告ではないから、転借人が支払う看板道路占用料を被告が取得すべき理由はないこと、そのほか転借人と被告との間の看板外体利用についての契約にその旨の定めがあるなど被告が看板道路占用料を取得すべき事情も認められないことからすれば、看板道路占有料名目で徴収した金員も前記(1)の共益費に含まれるというべきである。

(三)  被告が賃借人として共益費を負担するものでないことは、前記2の説示で述べたとおりである。

(四)  被告がマダムジョージ及び西五番館から徴収すべき共益費については、仮に原告主張のとおり被告が右各転借人から共益費を徴収すべきであるとしても、それが受託者として尽くすべき注意義務違反となることは格別、徴収しないことをもって直ちに被告が未徴収の共益費を負担すべきであるということはできず、被告に対し未徴収の分の引渡しを請求することはできないといわざるをえない。

二  不当利得返還請求について

1  請求原因2(一)(原告の本件(二)建物所有について)、同2(二)(被告に対する賃貸)及び同2(三)(被告の転貸)の各事実は、当事者間に争いがない。

2  原告は、被告が共用部分の転貸によって得た賃料は、原告との間において法律上の原因なくして利得したものである旨主張し、被告は、満室保証契約を締結したことにより、共用部分も賃貸借契約の対象となった旨主張する。しかしながら、原告と被告との間において、共用部分の使用権原として、被告主張のとおりの賃貸借契約に基づく賃借権が存在するか否かは暫く措き、少なくとも原告も認めるとおり、専有部分の賃貸借契約に付随する使用貸借契約に基づく使用借権が存在するというべきである。そうであれば、被告が共用部分の転貸によって収受した賃料が原告との間において法律上の原因なく利得したものになることはないというべきであり、その余について判断するまでもなく本件不当利得返還請求は理由がないものといわなければならない。

三  抗弁一(管理委託契約変更の合意)について

《証拠省略》中には、被告の右抗弁に副う部分が存する。

しかしながら、右証言部分は、契約締結当初から管理委託契約を変更したというものであるところ、《証拠省略》によれば、原告と被告との間で作成された管理委託契約書には、原告が契約に基づき被告に支払うべき管理委託料は月額五七万五五三四円であり、被告は、原告のために共益費を徴収し、その場合には、原告はその徴収額の限度で右管理委託料を支払う旨定められ、この規定の適用を排除する趣旨の定めは右契約書中に見当たらないことが、弁論の全趣旨によれば、前記規定排除の趣旨を記載した別個の書面も存在しないことが、《証拠省略》によれば、被告から共益費の支払がないことについての大野正夫の質問に対する被告の昭和五六年五月二八日付回答書には、管理委託契約の第八条及び第九条についての変更の合意がある旨の指摘がないばかりか、かえって被告が第八条第四項を引用して、その適用されるべき旨を指摘していることがそれぞれ認められる。また、右証言部分は、転借人が決まるまでは転借人から徴収する共益費が現実の管理費用を下回り、当初から赤字では原告に申し訳ないので契約を変更したというのであるが、右認定のとおり本件管理委託契約においては、管理委託料は、現実の管理費用額の多寡にかかわらない形で定められており、転借人から徴収する共益費が月額五七万五五三四円を下回る場合でも徴収の限度で管理委託料を支払えば足り、原告にはなんらの負担も生じないこととされているのであるから、原告が契約を変更しなければならない合理的理由もない。更に、現実の管理費用を賄えるという見通しで被告が管理委託料を設定したことは、前記一3(二)(2)の認定のとおりであるから、被告にも、現実の管理費用が月額五七万五五三四円を上回ることを危惧するというような契約の条項を変更すべき事情はない。

以上の事実及び《証拠省略》に照らせば、前記証言部分は採用することができず、他に抗弁一の事実を認めるに足りる証拠はない。

四  抗弁三(和解契約)について

《証拠省略》によれば、被告は、昭和五九年一〇月三一日、原告との間において、原被告間の本件賃貸借契約を解除し、被告と転借人との間の転貸借契約に基づく被告の転貸人たる地位を株式会社オーエム企業に移転する旨の契約(以下「解除契約」という。)を締結したこと及び解除契約締結の際に作成された合意書には、他に債権債務の存しないことを相互に確認する趣旨の条項が存しないことが認められる。この点について、証人四ッ井清は、解除契約締結時には被告の転借人に対する未払賃料債権及び転借人の保証金に関する問題が存したため、他に債権債務の存しないことを確認する旨の条項を入れることができなかった旨証言し、《証拠省略》によれば、解除契約締結後、右問題について、原告、被告、株式会社オーエム企業及び転借人の間において合意が成立したことが認められる。しかしながら、《証拠省略》を総合すれば、解除契約に先立つ原告代理人坂入高雄と被告との間の話合において被告が転借人から徴収した共益費と原告が被告に支払うべき管理委託料の差額をどうするかという問題が話題になったことはなく、坂入高雄は右問題を後に協議する意図で解除契約を締結したこと、解除契約には、本契約に付帯する条項については別途協議して定める旨の条項が入れられていることが認められ、右事実に照らせば、本件共益費支払請求権の存しないことを確認する趣旨で解除契約が締結されたと認めることはできず、他に右抗弁事実を認めるに足りる証拠はない。

五  遅延損害金について

被告が転借人から徴収した共益費の原告に対する引渡債務の弁済期について、前掲甲第一号証はなんら定めるところがない。しかしながら、同号証によれば、原告は被告に対し当月分の管理委託料を当月末日までに支払うこととされていること及び本件管理委託契約においては、被告が転借人から徴収した共益費の中から原告は管理委託料を支払うことを予定していることが認められ、また、《証拠省略》によれば、被告は、転借人から翌月分の共益費を毎月二五日までに徴収することとしていること(第七条、第四条)が認められ、右の各事実を合わせ考えると、被告は、原告に対し、転借人から徴収した当月分の共益費を遅くとも当月末日までには引き渡す義務があるというべきである。

六  結論

以上説示のとおり、原告の被告に対する本訴請求のうち、管理委託契約に基づき、被告が転借人から徴収した昭和五九年三月分までの共益費四七二九万二五三九円から原告が被告に支払うべき管理委託料四〇二八万七三八〇円を控除した七〇〇万五一五九円及びこれに対する徴収共益費の最終の弁済期の翌日である昭和五九年四月一日から支払ずみまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を求める部分は理由があるから認容し、その余は失当として棄却し、訴訟費用の負担について民訴法八九条、九二条本文を、仮執行の宣言について同法一九六条を、それぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 加藤和夫)

<以下省略>

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